わさび栽培の現状と挑戦
農業未経験の私たちには、師匠の梅川仁樹さんという強力な味方がいる。向峠集落でわさび栽培を始めて35年のベテランである同氏は、わさびの産地化促進と新規就農者支援の他、岩国市農業委員会会長、山口県農業士協会会長を務め、地域のリーダーとして活躍している。
岩国市北部地域の山間部では、明治初期の頃から本格的にわさび栽培が始められ、当地域の農業を支える作物として栽培されてきた。しかし、当地のわさび生産者数は、1998年の114戸から2018年には34戸と、20年間で約7割減少、さらに生産者の半数以上が80歳を超え、高齢化と担い手不足が深刻となっている。
わさびの生育の適温は8~18℃だが、近年の地球温暖化により、栽培適地が減少しており、ここ向峠地区も例外ではない。そこで梅川さんが中心となり、「超促成栽培」といわれる栽培方法や「底面給水掛け流し法」といわれる育苗方法を考案。播種から収穫までが1年で完結し、暑い夏を越させない、新たな栽培体系を確立した(通常の露地栽培は約2年かかる)。
私たちは、師匠に栽培方法を教わる中で、実はわさびはほぼすべての部位を食べられるにもかかわらず、洗浄・調整等に経費がかかり、利ざやが少ないため、その多くが利用されずに廃棄されている実態を目の当たりにした。
そこで私たちは、銀行取引先や公的機関等と連携し、廃棄される葉や根を活用した新製品の開発に着手した。わさびの抗菌作用に着目し、例えば食品トレー用の抗菌シート等、工業製品の原料として活用する方法を研究している。
その他の新しい取組としては、北海道の企業と連携し、西洋わさび(別名ホースラディッシュ:日本では主に北海道で栽培される欧州原産の植物。こちらも加工わさびの原料として使用される)の栽培実証を開始している。
未利用部位の活用も新品種の栽培実証も、地域の収益力向上を目指す取組であり、バンカーズファームが強みとする幅広いネットワークを生かした、地域価値向上への挑戦だ。